宮古島に海の家がない理由。ゴールドコースト、マンリー、ハワイ、サンタモニカを歩いて見えたこと
千葉県銚子市で育った編集者として、海は特別な存在だった。
夏になれば海岸には海の家が立ち並び、焼きそばの香ばしい匂いと、遠くから聞こえる音楽が風に混ざる。砂浜にはパラソルが並び、浮き輪を抱えた子どもたちが走り回る。濡れた砂の感触と、シャワーの水音。海はただ泳ぐ場所ではなく、家族や友人と一日を過ごす“夏の街”だった。

銚子のビーチは、季節になると姿を変える。普段は静かな海岸が、七月から八月のわずか二か月間だけ、もう一つの街になる。焼きそば、かき氷、冷えたラムネ。夕方には西日がテントを照らし、夜には灯りがともる。
そして神奈川の茅ヶ崎や湘南も同じだ。
江ノ島を望む片瀬海岸や茅ヶ崎サザンビーチでは、海の家がずらりと並び、サーフボードを抱えた若者や家族連れ、カップルが行き交う。音楽が流れ、テラス席ではビールが運ばれ、海は“夏のエンターテインメント空間”になる。
湘南では海そのものだけでなく、海沿いの文化も楽しむ。
日差しの下でくつろぎ、夕方にはそのまま食事をし、夜まで続く賑わい。海は単なる自然ではなく、季節限定の都市になる。
私にとって海とは、こういう場所だった。

だから宮古島に来たとき、最初に思った。
「あれだけきれいな海なのに、なぜ海の家がない?」この疑問は、日本だけを見ていても答えは出なかった。

オーストラリアのゴールドコースト、シドニーのマンリービーチ、ハワイのワイキキ、アメリカのサンタモニカを歩いて、ようやく見えてきた。海は国ごとに“役割”が違う。
ゴールドコースト|海はスポーツであり都市資源

ゴールドコーストは外洋に面した長大なビーチ。大きな波とサーフカルチャー。ライフセーバーの監視塔と明確な遊泳旗。しかし日本のような海の家は並ばない。飲食はビーチ沿いの常設店舗や街側の商業施設が担う。海はイベント会場ではなく、自然と都市が隣接する空間。経済はビーチの上ではなく、周辺都市で回る。
マンリービーチ|自由に見えて実は厳格

マンリーも同じだ。開放的で美しい。しかし遊泳エリアや犬の利用には明確な制限がある。「犬を海に入れるとサメを引き寄せる可能性がある」と聞いたのはここだった。科学的に必ず寄ると確認されているわけではない。しかしゼロとは言い切れない。だから制度で管理する。彼らは“最悪を想定して設計する”。海は甘く見ない対象だ。
ハワイ・ワイキキ|設計されたリゾート海岸
ワイキキは計画型ビーチだ。ホテル、ビーチバー、レンタルショップが景観の中に組み込まれている。商業と景観を両立させるモデル。観光島として徹底的に設計されている。海は経済の中心にある。
サンタモニカ|都市型エンターテインメント

サンタモニカはさらに都市的。巨大な桟橋、遊園地、イベント。海そのものより“海沿い体験”が主役になる。ここでは海は都市文化の一部だ。では宮古島はどこに属するのか
宮古島はどれにも当てはまらない。
リーフに守られた透明な内海。人工物が少ない白砂。音の少ないサンセット。宮古島の強みは、“足さないこと”。海の家がないのは、遅れているからではない。足さなくても成立しているからだ。
砂山ビーチの事故が教えること
砂山ビーチ周辺では過去にサメによる死亡事故があった。沖合でのサーフィンという条件が重なったケースだ。これは消せない事実。しかし宮古島の海が日常的に危険という話ではない。通常の海水浴で過度に心配する必要はない。ただ一つ言えるのは、宮古島の海は“優しいが野生”だということ。リーフの切れ目、外海に繋がる地形、離岸流。きれいだからこそ油断しやすい。制度より意識で守る海。それが宮古島だ。

観光増加というジレンマ
観光客は増えている。空港は拡張され、ホテルは建設され、世界に知られた。観光は島を潤す。雇用を生み、経済を回す。しかし観光が増えるほど、便利さも求められる。ビーチ沿いの飲食施設。夜営業。イベント。仮設店舗。それは悪ではない。だが人工物が増えれば、静けさは減る。光害も増える。便利と景観は完全には両立しない。
引き算で守る島
ゴールドコーストは設計で守る。
マンリーは制度で守る。
ワイキキは計画で守る。
サンタモニカは都市で包む。
宮古島は、まだ引き算で守っている。人工物が少ないからこそ世界レベル。何もないからこそ特別。海の家がないことは、不便ではなく選択の結果かもしれない。
これからの宮古島へ
観光は止まらない。止めるべきでもない。必要なのは問い続けることだ。どこまで足すのか。何を守るのか。宮古ブルーは、足し算で輝いているのではない。引き算で保たれている。もし誰かに宮古島を勧めるなら、こう伝えてほしい。
「何も無いから最高なんだよ。でも、その意味を知ってから行ってね。」その一言が、未来の景色を守る。
✅ 深いFAQ
Q1.宮古島に海の家がないのは規制が厳しいからですか?
A.規制要因もありますが、それだけではありません。地形(リーフ型内海)、通年観光構造、景観重視の文化が重なり、仮設型ビジネスが主流にならなかった背景があります。
Q2.将来的に宮古島に海の家が増える可能性はありますか?
A.観光客増加に伴い議論は起こり得ます。ただし景観保全と両立できる設計が前提となるでしょう。量ではなく質の議論が重要です。
Q3.宮古島の海は観光開発が遅れているのですか?
A.遅れているわけではありません。ゴールドコーストやワイキキのような“設計型リゾート”とは異なり、“自然主導型”の発展をしているだけです。
Q4.砂山ビーチのサメ事故は現在も危険という意味ですか?
A.通常の海水浴で過度に恐れる必要はありません。ただし外海に繋がる地形や沖合活動では自然リスクを理解することが大切です。
Q5.観光客が増えると景観は必ず悪化しますか?
A.必ずではありません。設計・規制・利用者意識次第で両立は可能です。ただし無秩序な開発は景観価値を損なう可能性があります。
Q6.宮古島の海の最大の強みは何ですか?
A.人工物が少ないことによる透明感と静けさです。これは世界的に見ても希少な価値です。
Q7.宮古島の未来に必要なのは何ですか?
A.便利さを足す前に、守るべき景観の定義を共有すること。観光客・事業者・島民の三者の意識が鍵になります。
Q8.観光と保全は両立できますか?
A.可能です。ただし“どこまで足すか”を常に問い続ける姿勢が必要です。無自覚な拡張が最大のリスクです。
Q9.宮古島はゴールドコーストのようになるべきですか?
A.同じになる必要はありません。宮古島の価値は“引き算”にあります。個性を失わない発展が理想です。
Q10.この記事で一番伝えたいことは?
A.宮古ブルーは偶然ではなく選択の結果だということ。未来もまた、選択次第で変わります。



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