宮古島で暮らしていると、県外の人が驚く言葉を耳にすることがあります。「少しは台風来てくれないと困るさ」。もちろん被害を望んでいるわけではありません。停電や断水、飛行機の欠航、船便の停止、農作物への被害、観光客のキャンセルなど、台風が島にもたらす影響は決して小さくありません。それでも宮古島では昔から「適度な台風は必要」と言われてきました。実際に2014年に移住してから12年が経ちますが、本当に記憶に残るような大型台風は2回ほどしかありません。観光客にとっては台風が来ない方が良いことですが、島全体で見ると少し事情が違います。
【海】宮古ブルーを守る台風の役割

宮古島の最大の魅力といえば、やはり宮古ブルーの海です。しかし、その美しい海を支えているサンゴ礁は近年大きな危機に直面しています。原因の一つが海水温の上昇です。夏場に高水温が長期間続くとサンゴは白化現象を起こし、回復できなければ死滅してしまいます。台風が接近すると海が大きくかき混ぜられ、深い場所の冷たい海水が沿岸へ流れ込みます。いわば自然の冷却装置です。近年は「台風が少ない年ほどサンゴの状態が心配」という声を聞くこともあります。観光客には迷惑な存在でも、海にとっては必要な自然現象なのです。世界中でサンゴ礁の減少が問題になる中、宮古島の海も例外ではありません。私たちが当たり前のように見ている宮古ブルーは、自然の絶妙なバランスの上に成り立っています。
【農業】恵みの雨をもたらす存在

宮古島には本州のような大きな川がありません。降った雨は地下へ浸透し、地下水として蓄えられます。そのため農業は雨に大きく左右されます。サトウキビ、マンゴー、オクラ、ゴーヤー、冬瓜など、宮古島の農業を支えているのは水です。地下ダムが整備されているとはいえ、長期間雨が少なければ農業への影響は避けられません。もちろん猛烈な台風は農作物に大きな被害を与えます。しかし一方で、適度な台風がもたらす大量の雨は地下水を潤し、農業を支える大切な資源になります。宮古島の農業は地下ダムによって大きく発展しましたが、その地下ダムを満たすのも結局は雨です。島の農業は自然の恵みなくして成り立たないのです。
【観光】台風が来ない方が嬉しい業界

観光業だけを見れば、台風は間違いなくマイナスです。飛行機の欠航、フェリーの運休、マリンアクティビティの中止、ホテルのキャンセル、飲食店の売上減少など、宮古島経済の大きな柱である観光業は台風による影響を直接受けます。特に夏休みや大型連休中の台風は観光業界にとって大きな痛手です。そのため観光関係者の多くは「できれば来ないでほしい」と考えています。しかし皮肉なことに、その観光資源である海や自然環境を守るためには、適度な台風も必要です。美しい海があり、サンゴが生き、魚たちが集まるからこそ観光客は宮古島を訪れます。観光と自然環境は切り離せない関係にあります。
【暮らし】島民が受け継いできた知恵

宮古島で暮らしていると台風対策は特別なことではありません。ベランダの片付け、看板の固定、飲料水や食料の備蓄、モバイルバッテリーの充電、停電への備えなど、台風前になると誰もが自然と準備を始めます。昔に比べ住宅性能は向上しましたが、それでも強い台風が接近すると島全体に緊張感が走ります。地元の方々は何十年も台風と向き合いながら暮らしてきました。コンクリート住宅が多いのも、窓が小さい家が多いのも、すべて台風と共存するための知恵です。観光では見えない島の日常には、自然への敬意と備えが根付いています。
【インフラ】島のライフラインを支える自然環境

宮古島は離島です。本州の都市部とは事情が異なります。台風によって船便が止まれば物流にも影響します。スーパーの商品が少なくなったり、建設資材が届かなかったりすることもあります。飛行機が欠航すれば観光だけでなく、ビジネスや医療にも影響が出ます。一方で、雨が少ない年は地下水や農業への影響が懸念されます。宮古島のライフラインは常に自然環境と隣り合わせです。便利な生活が当たり前になった今でも、島の暮らしは自然の影響を強く受け続けています。
【気候変動】昔と変わり始めた宮古島の自然

近年は「台風の数が減った」というよりも、「台風の来方が変わった」と感じる島民も少なくありません。以前は宮古島近海を通過していた台風が北上前に進路を変えたり、勢力を保ったまま本州へ向かったりするケースも増えています。一方で海水温は上昇し続けています。観光客にとって晴れの日が続くことは嬉しいことかもしれません。しかし海の中ではサンゴが高水温と戦い、畑では雨不足を心配する声もあります。台風が少ないことが必ずしも良いこととは言い切れない時代になってきています。
みゃーくずみ編集部より
移住して12年。記憶に残るような大型台風は数えるほどしかありません。観光客目線で見れば「台風が来ない宮古島」は理想かもしれません。しかし島全体を見渡すと、海も農業も地下水も自然の循環によって支えられています。台風は災害である一方、海を冷やし、雨を運び、島の自然環境を維持する役割も担っています。だから宮古島では今でも時々こんな言葉が聞こえてきます。「被害はいらない。でも適度な台風は来てほしい。」災害と恵みは紙一重。宮古島で暮らしていると、その言葉の意味を少しずつ実感するようになります。




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