
🪣 来間島の命をつないだ“断崖の泉”——「来間ガー」の記憶を辿る
宮古島南西部に位置する小さな島、来間島。その静かな南東の断崖沿いに、かつて島人の暮らしを支えた**「来間ガー」**がひっそりと佇んでいます。
「ガー」とは、宮古方言で湧き水の井戸を意味する言葉。河川が存在しない宮古諸島では、地下から湧き出すこの“命の水”こそが、人々の生活を支える最も貴重な資源でした。来間ガーは、そんな島の生と文化の原点ともいえる場所です。

🌿 三つの泉に宿る、役割と祈り
来間ガーは、断崖の中腹から湧き出す三つの水源で構成されています。
- 一番ガー:飲用水として最も清らかで神聖な泉。命を直接つなぐ存在として、特に大切にされてきました。
- 二番ガー:洗濯や炊事に使われた生活水の泉。家族の暮らしを支える日常の水場。
- 三番ガー:家畜の洗い場や潮流しとして活用された泉。海と共に生きる来間の男たちが、漁から戻るたびにこの水で身を清め、自然への感謝を捧げました。
それぞれのガーには、用途に応じた明確な役割分担があり、無駄を出さない循環型の暮らしの知恵が息づいていたのです。

🧺 命の水を運ぶ、断崖の石段
この貴重な湧き水にたどり着くには、今も残る40メートル超の断崖を下る急勾配の石段を通らなければなりません。昔の女性たちは、重たい桶を手にこの石段を一日に何度も往復し、家族のために水を運び続けました。
それは過酷な労働でありながら、同時に子どもたちにとっては冒険の通り道。命の水をいただくという行為そのものが、島での暮らしの尊さと厳しさを物語っています。

💧 使い切るのではなく、使いまわす——循環の精神
来間ガーの水は、ただ汲み上げて使うのではありません。飲み水、洗濯水、家畜用と、段階的に使い分けられた水は、最後には海へと流れ込んでいきます。
この自然なサイクルの中で、水は繰り返し役割を変えながらも、命を支える力を失うことなく生かされていたのです。そこには、水という資源に対する深い敬意と、自然と共にある生活文化が反映されています。

🛠️ 忘れ去られた泉を、もう一度島の宝に
かつて、観光開発によりふさがれてしまっていた三番ガーも、地元自治会の尽力によって水の流れが復元され、再び来間の湧き水が“生きた水”として蘇りました。
今では整備が進められ、観光客もその歴史に触れることができる場所として次世代への橋渡しが行われています。
🌺 島の未来をつなぐ、水と祈りの記憶
来間ガーは、単なる井戸ではありません。それは、自然と人間が寄り添いながら生きてきた証であり、現代の私たちにも多くの示唆を与えてくれる場所です。
美しい海や空に目を奪われがちな来間島で、この断崖に刻まれた小さな泉の物語にも、ぜひ耳を傾けてみてください。
📍 **住所:**沖縄県宮古島市下地字来間
🚶♀️ **アクセス:**来間島集落から徒歩で約10分。石段を下るため、歩きやすい靴での訪問がおすすめです。
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